オートファジーから拡がる膜界面生物学

領域代表挨拶

領域代表挨拶

北海道大学遺伝子病制御研究所・教授
野田 展生

現代生命科学研究は遺伝子およびそれがコードするタンパク質の解析により著しい発展を遂げてきました。タンパク質は実に多様な機能を持っており、あらゆる生命現象はタンパク質の働きが支えていると言っても過言ではなく、生体分子としてのタンパク質の重要性は明らかです。しかし同じくらい生命に重要であるにもかかわらず生命科学者の多くが普段存在を忘れている生体分子があります。脂質です。我々の体は、水やミネラルを除くと脂質とタンパク質がそれぞれ約45%も占めており、両者が協力して生命活動を担っています。そのわかりやすい例がオートファジーです。オートファジーでは脂質でできたオートファゴソームと呼ばれる二重膜構造を新生し、それが分解基質を隔離しリソソームへと輸送することで分解を行います。最近の研究により、オートファゴソーム形成は、脂質とATGタンパク質のそれぞれの分子集団が膜界面で機能的な相互作用を形成し、連携して働くことで引き起こされることがわかってきました。すなわちオートファジーを理解するためには、脂質とタンパク質という異種分子群の連携を理解する必要があります。そして重要なことは、このような膜界面における脂質とタンパク質の連携はオートファジーなどの特定の膜現象に限定されたものではなく、細胞内、細胞外を問わず実に多様な生命現象の制御に重要な役割を担っているということです。

本学術変革領域研究A「オートファジーから拡がる膜界面生物学」では、これまでのオートファジー研究でわかってきた「脂質集団とタンパク質集団の膜界面における協奏」に着目し、生命科学全体をその視点で見直すことを狙っています。多様なバックグラウンドを持った研究者が集結した領域となっており、異分野融合が有機的に進むことが本領域成功の鍵を握っています。そのために、本領域ではウェブ討論サイト「膜界面フォーラム」を設け、最新の研究成果を手軽に共有し、活発な議論が行える場所を提供します。多様なバックグラウンドを持つ研究者の皆様が自由闊達に議論し、共同研究を通じて相乗効果を生み出す場にしたいと考えております。また、若手研究者の育成や国際連携にも積極的に取り組み、世界の膜界面研究を牽引する拠点形成を図ります。

5年間の挑戦的な研究期間を実り多いものとし、「膜界面生物学」という新分野を確立、発展させていくために、皆様のご支援とご協力をどうぞよろしくお願い申し上げます。